愛を教えて

(6)繰り返す悲劇

テムズ河南岸、ウォータール駅の近くに位置し、客室数六十程度だが全室スイートタイプという、五つ星ホテルがある。オーナーは藤原卓巳。

卓巳はホテル内にオーナーズ・ルームを所有している。いつもはそこが、彼のロンドンでの滞在先だった。


万里子は卓巳の腕の中で震えていた。


卓巳は繰り返し、万里子の名を呼んでみる。しかし、「やめて……いや」そんな言葉を泣きながら口走るだけだ。

万里子の心が戻って来る気配はなく、卓巳は婦人科と精神科のドクターを呼んだ。

ドクターはふたりとも女性だ。万里子の意識が戻ったとき、心理的負担を和らげるために卓巳が手配した。

精神科のドクターは、


『お気の毒です。あなたもショックでしょうが、奥様の受けたショックは計り知れません。このままだと奥様は永久に心を閉ざしてしまう可能性もあります』


卓巳は“永久に”の言葉にぞっとする。

だが、婦人科のドクターが卓巳に告げたのは予想外の言葉だった。


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