愛を教えて
『今の声を聞いただろう!? 彼女には、貴様のような男に傷つけられた過去がある。大きく胸元の開いた服も、水着姿も、男の目を怖がって嫌がる。夏場でも肌を隠す彼女を、貴様は人前で裸にしたんだ。さあ、よく見ろ! 彼女は破廉恥か? 娼婦に見えるのかっ!?』


ライカーの銀髪を鷲づかみにして、卓巳はベッドを指し示した。膝から崩れ落ちそうになるライカーを卓巳は引き摺り、寝室の外に放り出す。


『食事も取れない。薬を使わないと眠ることもできない。あれからずっとだ。万里子が貴様に何をした? 言ってみろっ!』


卓巳は後ろ手に寝室のドアを閉める。


『薔薇の花で、償える程度の罪だと思っていたのか!?』


ライカーはようやく口を開いた。


『……知らなかったんだ……こんな……』

『万里子は私のすべてだ。彼女をこの手で幸せにすることだけが望みだった! ――貴様から、すべてを奪ってやる。万里子が貴様を許すと言うまで、一生奪い続けてやる。どこにも逃げ場はないと思え!』


正義などどうでもいい。今の卓巳はただ、憎しみの塊と化していた。


『どう、すればいい? どう償えば……英国中から医者を探してこよう。いや世界中から』

『貴様の手は借りん。万里子は私が治す。失せろ』


床に座り込んだまま震えるライカーに、卓巳は吐き捨てた。


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