愛を教えて

(7)心の旅路

とうとう新婚旅行最終日となった。

ロンドンの空はどんよりと曇り、まるで卓巳の心を映したかのようだ。

成田直行便の最終は十九時過ぎに出発する。日本時間で翌日の十六時前には成田に到着予定だ。そして、卓巳が東京に戻れば、すぐにも取締役会が開かれるだろう。そこで解任されれば、卓巳は会社を追われる。


しかし、今の卓巳には日本に戻ってからのことなどどうでもよかった。

藤原グループにとって、卓巳は歯車のひとつに過ぎない。彼が抜けたところで、質さえ問わなければ、代わりはいくらでもいる。

だが、万里子は違う。

今の万里子を守れるのは自分しかいない。

世界中を敵にしても守りたい、万里子さえ元に戻ってくれるなら、他の何と引き替えにしても惜しくはない。

万里子を取り戻す――卓巳は決意を新たにした。


初めは休ませることが先決と考えた。しかし今日で三日目。これ以上薬物に頼るのは万里子の身体に負担をかける。

無論、精神科のドクターは『無理は禁物』と言っていた。だが、卓巳は万里子の強さを信じていた。


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