愛を教えて
カフェを出た直後、卓巳の携帯が鳴った。


「ああ、ジェイクだ。ようやく仕事を思い出したらしい。ちょっと待ってくれ――」


卓巳は万里子に断ると中庭の隅まで移動して電話に出る。電話はほんの二分程度で、すぐに万里子の元に戻って来た。


「まったく。ソフィのことばかりで……契約が終わったからと言って、仕事も終わった訳じゃないんだぞ」


卓巳はブツブツ文句を言っているが、本当に怒っている訳ではなさそうだ。


「ジェイクはなんて?」

「ああ、どうやら、元々ソフィに目をつけていたらしい。上手くベッドに……今回は洗面室だが……連れ込めて、即行でプロポーズしたそうだ」


卓巳の言葉に万里子は心の底からホッとした。

この三日間のことはほとんど覚えてはいない。

だが、卓巳以外の日本語が……それもたどたどしい女性の声が耳に残っていた。「ダイジョーブデス」と何度も言ってくれた気がする。

そんな優しい女性を、万里子たちのことがきっかけで悲しい目には遭わせたくない。


「そうだ! 万里子、今夜もテムズ河沿いのホテルで構わないだろう?」

「ええ。それが何か?」


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