愛を教えて
「結婚後は別居、三十歳までは子供を作らないという条件で、お正月にダイヤモンドの指輪を受け取られました。三カラットで八桁はするそうです」


宗は嬉しそうに話す。

だがそのとき、万里子が遠慮がちに口を開いた。


「それは、本当によかったんですか? 初めて静香さんにお会いしたとき、おふたりは付き合っていらっしゃるんだと思ったもので。卓巳さんには考え過ぎだと言われたんですけれど……」


卓巳は、宗の女性関係について大よそ把握しているつもりだ。

ここ数ヶ月、藤原邸を夜間に訪れる理由や、たまに離れに泊まって行く目的など。

最初はいつもどおりの遊びだと思っていた。ところが、これまでの女性関係を清算し始めたらしい。


「も、もちろん個人的問題は一切ありません。社長のおっしゃるとおり、万里子様の考え過ぎでございます。私も、静香様のご婚約を心から喜んでおります」


宗は表情を取り繕い、万里子に答える。

だが、次の言葉に取り繕った表情は一気に崩れ去った。


「そうなんですか? よかった。だったら雪音さんも安心ね」

「あ……いや……あの……」


微笑む万里子に宗は言葉が続かない。

夜の帳が下りた東京の街並みを眺めつつ、万里子は侮れない――苦笑を堪える卓巳だった。


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