愛を教えて
車がエントランスホールに滑り込み、玄関前で停まった。そして玄関の中に足を踏み入れた途端、宗が思い出したように声を上げた。


「あっと……申し訳ありません。報告を忘れていました。永瀬あずさですが」

「あの女はクビだ!」

「いえ、ですから……」


即答する卓巳に、宗が説明しようとしたとき、邸内の様子がおかしいことに万里子が気づいた。


「待って……何か」


万里子の声に卓巳と宗も話すのをやめる。


玄関から向かって左側、オープン階段下を抜ける通路から悲鳴が上がる。


「救急車! 誰か、救急車を呼んで! 大奥様がっ!」


それはメイド頭、千代子の叫び声だった。


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