愛を教えて
「大奥様ぁ、大奥様ぁ、逝かないでくださいませ。ひとりにしないでくださいませぇ! どうか……どうかぁぁ」


泣き叫んで皐月を揺さぶる。


「浮島、千代子が邪魔だ。宗、雪音と電話を代われ。お前はこっちだ――蘇生法はわかるな? 胸骨圧迫を頼む。万里子、AEDがそこにある。準備してくれ。できるな?」


卓巳は次々に指示をすると、自分は人工呼吸を始めた。

万里子も卓巳に言われたとおり、壁に取り付けてあるAED『自動体外式除細動器』を取り出す。その瞬間、アラーム音が鳴り響いた。

万里子に緊張が走る。


ベッドの横に持って行き、サイドテーブルをずらしてその上に置いた。

三十センチ四方、見た目は小型のスーツケースのようだ。蓋を開けると同時に電源が入る。あとは音声指示に従って動かせばいい。電極パッドを貼り付けるだけで、診断はすべて機械がやってくれる。

数年前、法改正により導入された非医療従事者向けのものだった。


「卓巳さん、指示が出ました! ――間もなく充電完了です。離れてください!」


卓巳と宗が皐月から離れ両手を上げた。その瞬間、万里子は通電のスイッチを押す。電流が流れ、皐月の身体が痙攣する。

そのまま音声指示に従い、卓巳らは心肺蘇生法を再開。

そして救急隊が到着すると同時に、皐月の心臓は微弱ながら鼓動を刻み始めた。


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