愛を教えて
万里子も医療従事者ではないから、決して慣れている訳ではない。


「私が教員免許を持っているから……。だから、卓巳さんも私におっしゃったのね」


法改正されて以降、ほとんどの学校に設置されつつある。一部を除き、教員は講習を受けるのが必須なのだ。万里子の大学でも講習会は毎年行われ、そのすべてに出席した。


「へぇ。凄いんですね、卓巳様って。あの状況でそんなことを考えられるなんて! 少し見直しました……あ、いえ、失礼いたしました」


雪音は慌てて訂正するが、確かに出発前夜の卓巳からは想像もできないだろう。

自信を失って万里子から逃げ、社長の椅子を投げ出した。その上、祖母の皐月さえ見捨てて出て行こうとしたのだ。

だが、今夜は卓巳がいなければ皐月は確実に亡くなっていただろう。病院でも適確な救命処置の賜物だと、医者から褒められたくらいだ。


「そうね。卓巳さんがいてくれたら、どんなことになっても安心だわ」

「それはそれは……ごちそうさまです」

「宗さんにも、ご苦労様って伝えてね」

「わ、私に言われましても……直接お伝えくださいませ」


些細な軽口に万里子の心はほぐれていく。

皐月が助かって本当によかった。そうでなければ、たとえどんなに完璧な応急処置をしたとしても、しばらくは笑うことができなかったはずだ。


そのとき、ふいに雪音の表情が曇り、何ごとか思い出したように呟いた。


「そう言えば千代子さんが、尚子様のせいだっておっしゃってたような……」


< 856 / 927 >

この作品をシェア

pagetop