愛を教えて
万里子の不安は、坂道を転がる雪だるまのように膨れ上がって行く。


もし、万にひとつでも妊娠しているのだとしたら、最初に言われる言葉は『おめでとうございます』のはずだ。

そうじゃない、と言うことは。

万里子は、耳のすぐ横で心臓が激しく脈打つ錯覚すら覚える。


(卓巳さんに連絡をしないと……)


そう思い万里子は立ち上がった。

その拍子にペットボトルが床に落ちた。ゴロゴロと転がる。慌てて拾おうとしたとき――突然、万里子の視界が歪んだ。

どうも、平衡感覚がおかしい。気分が悪くなり、そのまま床に座り込む。

ベンチに手をつき、頭を上げようとするが……目は開いているはずなのに目の前が真っ暗だった。


「どうしました? 具合が悪いですか? 声は聞こえますか?」


斜め上からそんな声が聞こえる。

万里子は『大丈夫です』と答えたいのに、全く声が出ない。

しだいに手も足も重くなり、指一本動かせなくなってしまい……。

万里子の心に卓巳の顔が浮かんだ瞬間、頭の中も真っ暗になった。


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