愛を教えて

(5)悪意に満ちた奇跡

「落ちつけだと? これが落ちついていられるかっ! 妻は検査を受けに来ただけなんだぞ。それがどうしてこんなことになるんだ!? 貴様は万里子に何を言った。ひと言でも妻を侮辱していてみろ、二度と医者は名乗れんと思え!」


人の声が聞こえる、と思った瞬間、飛び込んで来たのは卓巳の怒鳴り声だった。

万里子は重い瞼をやっとの思いで開く。

視界に入ったのは真っ白い天井と点滴バッグ、そこから腕に繋がるチューブ、そして、万里子を覗き込んでいる千代子の顔だった。


「旦那様、万里子様がっ! ようございました。どうなることかと心配いたしました」


千代子の目には涙が浮かんでおり、点滴の針が刺さっていない左手を握り締めている。


「千代子、さん……私」


それは自分でも驚くほど掠れた声であった。


「万里子!」


卓巳は部屋に飛び込むなり、万里子の元に駆け寄った。そして千代子と入れ替わるようにして、万里子の左手を握る。


「万里子、もう大丈夫だ。僕がそばにいる。ひとりにして済まなかった。やはり一緒に来るべきだったんだ」

「いえ……ごめんなさい。私のせいで」


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