愛を教えて
卓巳の顔を見るなり、万里子の双眸に涙が浮かび、こめかみに流れ落ちた。


「藪医者の言葉など気にするな。専門家はいくらでもいる。必要ならアメリカに渡ってもいい。だから、頼むから泣かないでくれ。別れるという言葉も絶対になしだ」

「ち、違うの……厳しいことを言われた訳じゃなくて。何も言ってもらえなかったの。ご主人と一緒に……って。それで、悪いことばかり考えてしまって」


ベッドに横たわる万里子を、抱き締めるようにしていた卓巳は驚いたように身体を起こす。


「何も?」


万里子は卓巳の問いに恥ずかしくなり、無言でうなずいた。



直後、病室の入り口から咳払いが聞こえた。

そこには、万里子を診察してくれた五十代の男性医師が立っていた。卓巳にかかっては“藪医者”呼ばわりだが、不妊治療では日本国内で五指に入る名医だ。


「実は、喜ばしいご報告と、あまり喜ばしくないご報告があるのです。それで、ご主人と一緒のほうがよろしいと判断させていただきました」


そして伝えられた担当医の言葉は――ふたりの胸に、喜びと悲しみの嵐を巻き起こした。   


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