愛を教えて
「奥様は間違いなく妊娠されていますよ。おめでとうございます」


唐突な医者の言葉にふたりは面食らった。

横になっていた万里子は身体を起こし、それを卓巳が支える。

担当医の言葉を聞くなり、万里子は泣き出した。それは、さっきとは違って嬉しい涙。


「ですが……心拍が確認できません。最終月経から計算して、すでに六週目の後半に入られている予定なのですが、胎嚢《たいのう》が確認されたのみです」


立て続けに聞きなれない言葉をぶつけられ、卓巳は首を捻った。


「ドクター、それは何を意味するのか……わかりやすく言ってもらえないか?」


担当医は一冊のファイルを差し出し、ふたりに向かって説明を始める。


「こちらが六週の後半に差しかかった胎児……正確には、胎芽《たいが》と呼ばれる段階ですが、その時期のエコー写真です」


胎嚢とは赤ん坊の入った袋だという。それが子宮内に確認されると子宮外妊娠ではない、ということになるらしい。

そして、その中に点滅が確認されると、それが心臓となる。万里子の場合、まだその袋しか確認できていなかった。


「排卵が遅れて、実際の週数とずれが生じる場合も多々あります。ですから、このまま二週間ほど様子を見たいと思います。ただ奥様の場合、気になる点がひとつ」


そう言って、カルテを見ながら話し始めたのが、ロンドンで万里子が投与された催眠鎮静剤のことだった。


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