愛を教えて
それは妊婦への投与は避けられている種類の薬。

あのとき、診察を受けた時点では、万里子の妊娠は確認されていない。だが、計算上では着床の時期と重なる。体内に薬物の成分が残っていた場合、妊娠に影響を与えていないとは言い切れない。


「薬の影響で成長が遅れている、或いは止まってしまった可能性もあります。後者の場合、流産となります。しかし、妊娠が継続された場合……」


生まれてくる子供に重大な障害があるかもしれない。

そして何より怖いのが、妊娠中期以降での流産や早産である。母体に大きな負担をかけ、いよいよ二度と子供は産めなくなる可能性も捨て切れない。

最悪の場合、母親の命にも関わる。



このとき、卓巳の中では生まれてくる命に対する期待より、万里子の命を失う恐怖が先に立った。


担当医が出て行き、病室にはふたりきりだ。


ベッドの上で固まったままでいる万里子を抱き寄せ、卓巳は囁いた。


「今回は諦めよう。運が悪かったんだ。……よかったじゃないか、妊娠できるということがわかっただけでも、充分な進歩だよ。次は万全に計画して」


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