碧いボール
それからのあたしはボロボロで、何をやっても上手くいかなかった。
だめだろうな、って考えたけど、それでも一生懸命頑張った。
楽しんでる余裕なんてなかった。
あたしはお父さんに認めてもらいたくて、選抜に入りたくて。
審査員にいいところを見せようとして、あたしができる限りの大技を決めて見せたりして。
でもそんなこと、他の上手い人たちは普通にやってのけるし、杏だってできてた。
あたし、ほんとにだめだな。
休憩時間。
あたしは杏に抱きついた。
杏はあたしを心配してくれた。
「どうしたの?有希が弱くなるなんてめずらしいね」
杏の言葉を聞いた途端、涙が出てきた。
とぎれとぎれになりながら話すあたしの言葉を、杏はすくうように聞いてくれた。
「あ・・・たし、今日だめ・・・。あたし、杏に追いつけない・・・。何もできないよ・・・。どうしよう・・・」
杏は一呼吸おいてから言った。
「あのさ、有希。あたしね、今すごく楽しい。有希は楽しめてる?選抜目指すあまりに余裕持ててないんじゃない?」
「うん・・・。そうでもしないと、お父さんに一生近づけないような気がして・・・」
「はぁ・・・。ほんとに有希は何にも知らないんだなあ。有希はさ、おじさんの気持ちわかってる?わかっててそんなこと言ってるの?」
お父さんの気持ち・・・。
そんなこと、考えたこともなかった。
「わかるかな?おじさんは、有希の家族なんでしょ?有希の大切な家族なんでしょ?そんな唯一の人と話せなくて、有希は悲しいんでしょ?おじさんだって一緒じゃないの?」
お父さんも一緒・・・。
「有希にはあたしも白亜もいるからいいけど。おじさんには誰もいないんだよ?家に誰も連れてきたことがないっていうのも、会社であまり上手くいってないんじゃないの?」
そんなの、知らない・・・。
あたし、お父さんのこと、何もわかってない。
どうしたらいいの??
その時、無情にもビーっという休憩終了のブザーが鳴った。
杏は一度あたしを見てからダッシュでコーチの元へ駆け寄った。
あたしはさっきよりも遅くついてしまった。
名前しか知らないコーチににらまれる。
視線、痛いな・・・。

あたしは家に帰るなり、お父さんに抱きついた。
お父さんは迷惑そうな顔をしなかった。驚いてはいたみたいだけど、何も言わないであたしの手を握ってくれた。
「お父さん、ごめんね。あたし・・・」
そこまで言いかけたところで、電話が鳴った。
多分、芦田から。
あたしはセレクションで散々だったから、もうあきらめてるんだ。
楽しむこともできなかったし、あたしには遠い世界だったんだ・・・。
「はい、もしもし相川です」
電話の向こうから聞こえてきた声は、異様にテンションが高かった。
「相川か!?芦田だけど、お前たち、すげーよ!!」

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