ケイヤク結婚
「両親のことで、お兄ちゃんは私よりも世間の風当たりが強かったと思うの。私に何も言わなかったけど、絶対に辛かったはず。だからこそ、お兄ちゃんには幸せになって欲しいって思う。私が幸ちゃんに出逢えたように、きっとお兄ちゃんにも必ず良い人がいるって信じてる。それが綾乃さんだって、私は思ってるの」

「えっ?」

 私は目を丸くした。

 私が?

「お兄ちゃんには綾乃さんがぴったりよ」

「ただの契約結婚だけど」

「きっかけは何だって良いの! そこから真実の愛に気づけばね」

 気付けるかな? あんま自信ないけど。

「あっ! 休憩が終わっちゃうね」

 理沙ちゃんが室内にある置時計に目をやって、慌てて立ち上がった。

「本当だ。化粧直しておかないとだね」

 私も席を立つと、化粧ポーチをもってお手洗いに向かった。

 美容関係にいるとついつい化粧が濃くなってしまう。

 綺麗にしてないとお客様が遠ざかってしまうから。

 この人になら……って思われるようなスタッフにならないといけない。

 鏡にうつる自分の顔を見て、苦笑した。

 元のベースがねえ。もっと良ければ、厚化粧にもならないんだけど。
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