【十の瞳】
彼女の表情は浮かない。
実際、この場の空気は悪かった。
換気できない事もあるだろうが、全員が全員を監視しているという事実が、とても重たかったのだ。
全員が、椅子やソファー、あるいは即席ベッドにつくと、再び静かな緊張がやってきた。
誰かのちょっとした動作にも敏感に反応してしまい、とても気が休まらない。
あの初日の酒盛りのような、和やかなパーティーがあった事など、今となっては夢のようだった。
やがて、タキさんが布団を被ったまま微動だにしなくなり、沈黙に耐え切れなくなったファニーペインが、鞄からトランプを取り出して来た。
「ババ抜きしようぜ。
七並べでもいいけどさ」
「トランプなんて持ってたのか?」
「ああ。旅行にゃトランプだろ」
「何それ」
僕等が軽口を叩き合っていると、次第に空気がほぐれてきた。
しかし、ファニーの他に参加したのは僕と十二愛だけだった。