【十の瞳】
「……夜中の……何時だったのかは分からないけど、
私、ドアの音聞いたわよ。隣の」
彼女は、何者かが平三郎の部屋に来たらしき音を聞いたという。
蝶子の部屋は、死んだ平三郎の部屋の隣である。
そして、彼女の部屋のもう反対側は、廊下だった。
物音がしたというのなら、平三郎の部屋からだと考えるのが自然だろう。
「……ただ、今考えてみると、あれってもしかしたら犯人が来てたのかもね。
死体置きに……」
蝶子の他人事のような一言に、少々ゾッとした。
けれども彼女は、表情一つ崩さない。
きょろりと大きなその瞳は、爬虫類のように無機質だった。
彼女は、何を考えているんだろう。
でも確かなのは彼女が、怖くて部屋から出られないと泣く、十二愛とは真逆の人間のようだという事だった。