【十の瞳】
えどがぁさんは、人から触られる事も、人に触る事も出来ないらしい。
そういえば、初日の酒盛りの時も、誰かれ構わず絡まって来ようとする平三郎を、巧みに避け続けていた気がする。
聞けば、服だけに触れる事は出来るらしい。
しかし、皮膚同士が触れたらもう限界の針が振り切れてしまうのだとか。
きっと彼は、満員電車になんか乗れないに違いない。
日常生活に支障をきたしていると、本人も言っていた。
可哀想だが、僕に出来るのは彼に触れないように気を配ることくらいだった。
「それにしても、よく君は『接触恐怖症』なんて知っていたね」
「いえ、たまたまそういうのがあるって聞いたことがあった程度ですよ……」
その後、僕等はもう一度話し合った。
平三郎の胴体は、別館にある。
僕達が本館でしか行動しないのならば、わざわざ片付けに行く必要などないのではないか……と。
しかし、えどがぁさんは言いにくそうに、
「あの部屋は、一度じっくり調べた方がいい」
と言った。
その言葉が決定打となり、僕達は脱ぎかけた軍手を再びはめ直した。