リアル
薫は用意されたパイプ椅子に腰掛けながらその様子を見る振りをしつつ、辺りを見回した。
植田美緒の特徴は生野から聞いてはいるが写真を見たわけではないし、こういった専門職のような場は似たような娘が多い。
植田美緒が特別に派手な女性ならよかったのに。
薫はそう思いながら観察を続けた。
すると、衛生士の女性が足りないものがあるらしく、声を出した。
「植田さん」
その名前に薫は反応し、衛生士の視線の先に目を向けた。
するとそこには、生野が言っていた特徴に当てはまる女性がいた。
淡いピンク色の白衣を纏い、長い黒髪を一つに束ねている。
「はい」
美緒らしき女性は可愛らしい声で返事をした。
「102バーの新品持ってきて」
衛生士の言葉に美緒は笑顔で返事をし、素早く移動した。
そして近くにあった棚から、小さいバーを取り出し医師に渡した。
医師はそれを付け替え、隆の歯を削る作業を再開した。
「うん、このくらいなら一回で終われますよ」
医師は手を止めることなく隆にそう告げた。
「本当ですか?」
薫はそれらしい声を出した。
「はい。白い詰め物しておきますね」
医師は答えながら削るのを止め、診察台を起こしたら。
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