リアル





「では、口を濯いで下さい」


医師の指示に隆は素直に従っている。


「今の子、感じがいいですね」


薫は詰め物の準備をしている医師に声を掛けた。


「ああ、植田さんですね。ここの学生なんですけど、助手のアルバイトをしているんですよ」


恐らく、あれが植田美緒で当たりだろう。


薫は医師から引き出した話で確信を持った。


「じゃあ、続けますよ」


医師は言いながら診察台を倒した。


周りには他にも患者がいる。


以前薫が勤めていた歯医者より何倍も大きいここは、診察台も何台もあるし、医師や衛生士、助手の数も多い。


さすが大学付属だ。


薫がそう思っている時、隣の患者が突如噎せた。


ごほ、という音と共に、ごぷ、という水の音も聞こえた。


「奈良さん、お鼻で息して下さいね。お水はこちらで吸いますから、溜めてて下さい」


女性医師のおっとりとした声が聞こえた。


まるで子供にでも語りかけるかのように丁寧な口調だ。



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