リアル




薫は隆が自分に見とれていることなど全く気付かずに美緒の答えを待っている。


「ええと……明日は五時までですけど」


美緒は少し考え込んだあとにそう答えた。


「じゃあ、明日の五時に来るわ。その時に電話したいから、連絡先、教えて頂いてもいいかしら?」


薫は言いながら、鞄の中から手帳を取り出した。


すると、美緒は胸の前に手を掲げた。


「本当にお構い無く。大丈夫ですから」


美緒の印象は大人しめだがしっかりとした女性だ。


隆は手持ちぶさたで二人のやり取りを見た。


「駄目。それじゃあ、私の気が済まないわ。ね?」


薫の声はいつもよりうんと柔らかい。


普段の薫を知らなければ、セレブの奥様といった感じに見えるだろう。


隆はそこで初めて気が付いた。


だからか。


薫の服装は、前回此処に来た時も今回も、いつもより上等なものを着ている。


そう見せ掛ける為なのだ。


「……分かりました」


結局、美緒が折れる形で話は終わった。


最後に、美緒は薫の手帳に自分の電話番号を書き込んだのだ。



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