リアル




「ラッキーだな」


病院を背に隆が口を開いた。


「何が?」


薫はいつもとは違う結い方をしていた髪をほどき、首を軽く振る。


さらりとした黒髪が宙に舞い、弧を描いた。


「いや、だって、接点出来たじゃん。偶然にしてもラッキーだよ」


隆は興奮気味に口を開き続けている。


薫はそんな彼の様子を見て呆れたように息を吐いた。


「そんな偶然、あるわけないじゃない」


薫の言葉に隆はきょとんとした表情になった。


薫の言葉の意味が分からないのだろう。


「あれは、わざとやったの。接点作る為に」


薫は長い前髪を掻き分けながら言った。


「そっか、わざと……って、ええ?」


隆のやや大袈裟な驚き方に薫は眉をしかめた。


こんなに鈍い奴にわざわざ説明するのも面倒だ。


薫はそう思いながらも一応説明することにした。



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