リアル




「くそっ」


けたたましい音と共にゴミ箱が横倒しになった。


生野はその音で平常心を取り戻した。


だが、苛つきと悔しさからくる手の震えは止まらない。


廊下の隅のゴミ箱を蹴飛ばしたくらいでこの感情が収まるわけはないのだ。


生野は大きな舌打ちをしながらゴミ箱を起こした。


「し……生野さん」


後ろで若月が焦りの表情を見せている。


初めて見る怒り狂う生野の姿に驚きを隠せないのだろう。


「ああ……悪い」


生野は後頭部を掻きながら乱暴な行動を詫びた。


だが、悔しくて堪らない。


そして自分の不甲斐なさにもだ。


つい先程入った第一報は若い女性の死体が発見された、というものだった。


場所は常海歯科大学付属病院の敷地内。


死因はまだ分かっていない。


だが、どう考えても過去二件と同一犯の犯行で間違いないだろう。


それが悔しいのだ。



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