リアル




その事件はたった今捜査中なのだ。


捜査本部ではこれを警察への挑戦状と見て殺気立っているが、生野の胸の内はそれとは違った。


早く、早く犯人を見付けていれば、この被害者が殺されることはなかったのだ。


そう考えると居たたまれない気持ちが込み上げてくるのだ。


通常の殺人事件は多少犯人逮捕に手こずったとしても、新たな被害者が出ることは稀だ。


だが、こうした連続殺人とも呼べる事件の場合は一刻も早い犯人逮捕が望ましい。


それは被害者を増やさない為だ。


一刻も早い犯人逮捕は何も連続殺人に限ったことではないが、こういうケースの場合は特にだ。


生野は苛立った気持ちのやり場に困り、壁を拳で思い切り殴った。


じん、とした痛みが骨に響く。


「ああ、生野さんっ」


若月はおろおろとし、その場でいったり来たりを繰り返した。


この殺人を許せないのは何も自分だけではないか。


いつも以上に落ち着きのない若月を見ながら生野は苦笑いをした。


今出来ることをするべきだ。


生野はそう思い直した。



.
< 137 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop