リアル
新たな被害者は米山あかり、二十三歳で無職。
薫は生野の報告を電話で聞きながら、苛立ちを覚えた。
所詮自分は一般人で、犯人逮捕には何一つして関わることが出来ない。
もどかしい、そして腹立たしいのだ。
あの日、刑事を辞めてしまった自分が。
それが当たり前だと思っていた。
だけど、一人の部屋で大泣きした。
本音を言えば、辞めたくなかったのだ。
「生野さん、何だった?」
状況をまだ知らぬ隆が訊いてきたことで、薫は現実へと戻った。
「え……? ああ、また殺されたって……」
薫は携帯電話をテーブルの上に置きながら答えた。
頭が痛い。
もどかしさが頭痛に変わったのだろう。
「新しい被害者ってことか?」
隆が釣り気味の目を大きく見開いた。
「……そうよ」
刑事時代はこんなふうに追っている犯人が新たな犠牲者を出すことはなかった。
だから、こんな悔しさを知ることはなかったのだ。
そして、この悔しさも現役なら少しはましだっただろうか。
それとも、増したのだろうか。
電話の向こうの生野の声は悔しさで満ちたものだった。
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