リアル




「……何か、悔しいな」


隆がぽつりと呟いた。


隆の方に視線を向けると、彼はいつも縛っている髪をほどいていて、それを小さく揺らした。


肩を過ぎたくらいのさらさらの髪は隆の顔を覆い隠し、その表情は見えない。


だが、その気持ちはどうやら薫と一緒のようだ。


「そうね……」


薫は小さな声で答えながら、自分の手を見詰めた。


すると、急激にあの頃の感情が蘇ってきた。


おおよそ、刑事が抱くべきではない感情だ。


殺してやりたい。


薫は七年前のあの時、はっきりとそう思ったのだ。


いや、殺してやりたい、ではなく、殺す、と明確に思ったのだ。


だが、銃を向けたその背中は呆気なく落下していき、薫は人を殺してしまうことを免れたのだ。


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