リアル
その人物――青年は、野次馬の様子など全く気にせずに、ただブルーシートの向こうを気にかけている。
薫は気付かれる可能性はまずないと確信しながらも、それでも慎重に彼に近付いた。
やはり青年は薫が近付いてきていることに気付いてはいない。
何故、必死に中を見たがっているのか。
それはすぐに分かる。
薫は青年の横にぴたりとついたが、それでも青年は現場を見ることに気をとられている。
「ちょっといい?」
薫が声を掛けると、青年は肩をびくりと震わせた。
当たりかもしれない。
薫はジャケットのポケットに手を入れ、携帯電話を握った。
明るい茶髪を伸ばし、それを後ろで結わえている。
少し吊り気味の目が薫の顔を捉えている。
「あんた……警察か?」
青年はゆっくりと口を開いた。
この一言で、正解か外れか、薫には判断出来なくなった。
もし彼が犯人であったなら、咄嗟に逃げるのではないだろうか。
それとも余裕があるのか。
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