リアル





「……で、薫さんは、まだ同じことが言えるのか?」


隆は低い声で訊いてきた。


薫はその質問に曖昧な笑みを浮かべた。


忘れない、忘れたくない。


忘れられるはすがない。


ずっとそう思っていたはずだった。


だが、知らず知らずのうちに記憶に蓋をしていた。


いや、敢えて蓋をしたのだ。


そして、自分のせいなのに、そうでないと思いたかった。


心の何処かで仕方のないことだと思いたかったのだ。


「……分からないわ」


薫は静かに答えた。


そう、あの時の小田の言葉への答えは未だに出ない。


「でも、あの時は確かに殺してやる、て思ったわ」


薫は自分の手を見詰めた。


それだけは真実だ。



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