リアル
「……それは心外だな」
青年は口元を手で覆った。
「疑われないうちに帰るさ」
薫は立ち去っていく青年を止めずにそのまま彼の背中を見た。
疑問には答えることはしなかった。
犯人である可能性はゼロではないだろう。
だが、あれは「奪う目」ではない。
あれは、「奪われた目」だ。
このまま放っておいても、何の問題もないだろう。
薫はそう考え、その後暫くの間現場の様子を見てから自身のアパートへと戻っていった。
パートの時間まで二時間を切っている。
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