リアル




「あと、上を向いて下さい」


「これでいいか?」


生野は顎を上げ、天井を見上げる体勢になった。


何とも言えない図だ。


薫は少し離れたところから二人を見てそう思った。


「いきますよ」


隆は言ったあと、濡らしたタオルを生野の顔に乗せた。


そしてすぐに、生野の手を後ろに回し掴んだ。


薫はその瞬間、隆がしようとしていることの意味が分かった。


びっしょりと濡らしたタオルを顔に乗せられた生野は声にならない声を上げながらもがいた。


苦しそうに顔を下に向ける。


その瞬間、ぺたりとタオルが生野の膝に落ちた。


隆はそれを見るなり生野の掴んだ腕を離した。


「な……何をするんだっ」


生野は息を乱しながら叫ぶように言った。


「これ、短時間で済みません?」


隆はタオルを拾い上げ、流し台の中でぎゅっと絞った。


「え……?」


生野は立ち上がりながら、顔から滴る水を手の甲で拭っている。


「確かにね」


薫は生野に乾いたタオルを渡しながら頷いた。



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