リアル





「今日はお姉さんだけなんですね」


薫はその声に足を止めた。


そこには笑顔の美緒がいた。


「ええ。この間ご飯一緒した時、歯のクリーニングもしてくれるって言ってたでしょ? だから、来ちゃった」


薫は髪を揺らしながら言った。


「そうなんですか」


「ええ。さっぱしたわ。定期的に来ようかしら」


もう診察は済んでいる。


美緒と会ったのは偶然で、本来の目的は違った。


英治を探すこと。


それが此処にわざわざ足を運んだ理由だった。


この間のカフェでの英治の会話が気になり仕方無いのだ。


だから偶然を装って話をしたかったのだ。


「歯のクリーニングは大切ですからね」


美緒はまた笑顔を作った。


その時、子供が大泣きする声が耳に届いた。


ぎゃあ、ぎゃあ、とまるで獣のような金切り声。


薫は思わずそちらに顔を向けた。


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