リアル
「いたの? 鍵もかけないで……」
部屋の中に入ってきたのは薫だった。
「電気くらい、点けなさいよ」
薫は言いながら電気のスイッチに手を掛けた。
「点けないでくれ……」
隆は涙声がばれないように声を絞り出した。
薫がそれに気付いたかどうかは分からないが、スイッチから手を離した。
「どうしたの? 自分からメール寄越しておいて」
薫はふう、と息を吐きながら隆に近付いてきた。
顔を覗き込む時、さらりと美しい髪が揺れた。
同じであって同じでない。
その想いが隆の胸を更に締め付けた。
ぐっと込み上げる涙を抑える術など知らない。
むしろ、子供のように大声で泣いてしまいたいくらいだ。
今すぐ、この手を伸ばして……。
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