リアル
「そんな話を聞きに来たわけじゃないわ」
「もうちょっと聞いて下さいよ」
英治はそれだけ言ってから話を続けた。
「それで、美緒ちゃんのお父さんは僕の父親の高校の先輩なんです。で、美緒ちゃんが歯学部に入ったのを機に婚約させられました」
要するに、愛のない付き合いなんです、ということか。
だかといって、決して許されることではない。
「僕の夢はイラストレーターになることなんです。今、たまたま知り合ったイラストレーターさんの伝で事務所との契約の話が進んでるんです。それで、今、それ用の作品も作ってます」
英治は細い目を更に細くして語った。
夢が叶うことが嬉しい。
これはそういった表情だ。
「でも、その話が確定する前に美緒ちゃんにこれが知れたら、全部駄目になるでしょう。美緒ちゃんのお父さんは色んなところに力を持ってます。
僕の些細な夢を潰すくらい簡単なんです」
だから今は別れられない。
でも、と薫は思った。
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