リアル




植田総合病院の院長である彼女の父親には愛人が三人いる。


母親はお稽古ごとと旅行が趣味で殆ど家にいない。


友人はいるが全て大学時代からのもので、中学高校時代のものはいない。


恋人には他に本命の彼女がいるとの噂がある。


満たされているとは、幸せとは言えない毎日。


「だから、殺したのか?」


生野の言葉に美緒は顔を上げた。


その瞳は潤んでいて、頬には幾筋もの涙の跡がある。


こんなに後悔するなら、何故そんなことをしたのだろう。


「……そうです。でも、でも……殺そうとなんて考えたことなくて……」


三人も殺した人間が何をほざいてやがる。


精神鑑定にかけるなんてことになったら厄介だな。


生野は煙草を吸いたい気持ちを抑えながら机の端を蹴った。


美緒の肩がびくりと震える。



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