リアル
部屋の中は静まり返った。
薫の荒い息だけが広まっている。
薫は顔を上げることもせずに、隆が部屋から出ていくのを待ったが、隆が部屋から去る気配は一向にない。
薫の中の苛立ちは増し、もう一度出ていくように言おうとしたその時、隆が口を開いた。
「俺も家族を、両親を殺された」
嘘だ。薫は咄嗟にそう思った。
同じ境遇に見せ掛け、話を引き出そうとしているのだ。
「十五年前、目の前で両親を殺された。俺は手足を縛られ、ダイニングの椅子に固定されていた。
記憶が錯乱しているせいで、その前のことは思い出せない。その日の俺の記憶は、椅子に固定された景色から始まる」
薫はその言葉に思わず顔を上げた。
そこでは、隆が自分の両手をじっと見詰めている。
「俺は八歳だった。そこから見た景色だけは、はっきと覚えている。目の前で、俺と同じように手足を縛られた両親が、包丁で何度も刺されたんだ。血の色が視界を染めた。母親の血が目に入ったんだ」
隆の顔は無表情にも関わらず、憎しみが浮き出ていた。
「口を塞がれ、叫ぶことも出来ず殺された。だが、俺だけは殺されなかった。そして……」
隆はそこで一度言葉を切った。
外から笑い声が聞こえてくる。
近所の人の立ち話だろうか。
陽気な明るい声はこの部屋の空気とは正反対だ。
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