リアル



これから自分はずっと一人で生きていくだとか、そんなことまで考えているわけではない。


だが、恋人を作るつもりもなければ、誰かと結婚するつとりもない。


生野にはそう言って別れを告げた。


あれは美咲の葬儀が終わったその日の夜のことだった。


生野は静かな口調でそうか、と答えただけで、後は何も言わなかった。


それが優しさだったのか、それとも生野はそれ程自分を愛していなかったのかは分からない。


ただ、引き留められたりしなかったことを、安堵しながも寂しくは思った。


繋ぎ止めて欲しかったわけではない。


むしろ、どんなに「別れない」と言われようと別れるつもりではいた。


でも多分、「別れたくない」と、一言でいいから言って欲しかったのだ。


そしたら、今一人で孤独を感じることもなく、傍らに生野がいただろうか。


薫はまた苦笑いをした。


この七年、こんなことを考えたことはなかったのに。


なのに、何故急にこんなことを考えてしまったのだろう。


そして何故、一人を寂しいなどと思ってしまったりしたのだろう。


そう、今、一人でいることを寂しく感じているのだ。


自分にそんな資格はないというのに。




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