リアル




頬に跳ねたそれは生暖かく、つう、と垂れた。


目の前では、父親が腹を包丁で刺されていた。


タオルの隙間から漏れる声が痛さと恐怖を物語っている。


その時初めて、怖い、という感情が生まれた。


父親を刺しているのは、ニット帽を目深に被り、マスクをした男だ。


体型というか、雰囲気から若いと思えた。


だが、その顔は全く分からない。


男は父親の腹部から包丁を抜くと、もう一度刺し込んだ。


父親はまた呻き声を上げる。


ぽたぽたと真っ赤な血がフローリングの上に滴っていた。


男は同じ行動を何度も繰り返した。


ちらちらと刺す場所を変えながらだ。


途中から、絶命したのか、気絶したのか、父親は声を出さなくなり、頭をがくりと項垂れていた。


それでも男は刺し続けた。


そして、その隣で母親が猿轡のせいでくぐもった悲鳴を上げていた。




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