∮ファースト・ラブ∮
「互いに惹かれあっていくのが、
香織の恋人だった尚吾にもわかったんだ。
だから、尚吾は久遠を泥棒だと言って非難した。
香織の目の前でな、久遠と尚吾は喧嘩沙汰になったんだ。
そのふたりの間に立たされた香織はたまったもんじゃないよな、
久遠は自分の想いを押し殺して香織から手を引いたんだ。
だが、久遠は未だに香織を想っているし、香織も久遠を想っているのは確かだ。
香織は前よりも笑わなくなったからな」
麻生先輩は、まだ香織さんが好きなんだ…………。
「でも、どうして?
それなら、どうしてあんなタラシみたいなことを?」
「はじめ、久遠は香織のことを忘れようと思ってな、
他の女の子と付き合ったんだ。
それが、運の尽き。
尚吾は許さなかったんだ。
香織は自分の元に戻ってきたとはいえ、久遠に意識は傾いてるだろ?
久遠だけが幸せになるってことが許せなかったみたいだ。
久遠の付き合っていた女の子を陰で苛めはじめた。
久遠と付き合うからだって言ってな。
これは、久遠から直接訊いた話じゃない。
あくまでも噂だが、真実だろうと思う。
んで女の子は久遠から手を引いた。
で、そっからが久遠のおかしな発想のはじまり。
ひねくれちまってよ」
葛野先輩は、ハハッって乾いた笑いをして、また、ため息をついた。
なんだろう。
これって、聞いちゃいけないことだったんだろうか。
そんな感じがする。
胸が……痛い。
なんで?
なんで、好きなのに……ただ、みんな、好きな人がいるだけなのに……。
恋って……恋ってこんなに悲しいものなの?