∮ファースト・ラブ∮
「睦(あつし)、お前、泣かせるなよ」
鼻にかかった声は、いきなり後ろから聞こえた。
「うお!!
なんだよ久遠!?
いつの間に!?」
もしかして、さっきの話、全部聞かれちゃったかな?
そう思ったあたしは、そろりと葛野先輩と目配せをする。
「ついさっき、おいで手鞠ちゃん」
葛野先輩の質問に応えて、麻生先輩は手招きする。
よかった。
話の内容は聞かれていないみたいだ。
ほっと息をはくと、涙はまた溢れてきてしまう。
麻生先輩……。
とっても悲しい想いを抱いてるんだね。
あたしは、麻生先輩の胸の内に秘めた悲しい想いごとなぐさめたくて、
がしっ。 と、麻生先輩の腰にしがみついた。
そうしたら、ふんわり頭を撫でてくれる。
あたし、ほんとにこの撫で方好きなんだ。
気持ちよくて、思わずとろんとしてしまう。
「で?
なんでお前がここにいるんだよ?」
「それは、こっちの科白(せりふ)だ。
なんで手鞠ちゃんと屋上なんているんだよ」
「あ……いや、お兄さんとしてはだな。
久遠に泣かされてないかどうか、手鞠ちゃんが気になるわけだよ」
説得力に欠ける言葉だ。
「へ~え」
麻生先輩の顔はしがみついていて見えないけど、なんだろう。
じと目で葛野先輩を見てるようなイメージがわいた。