∮ファースト・ラブ∮

ぼくには後ろめたい感情がある。


かつて友人だった尚吾の彼女……香織を好きになってしまったことだ。

そんな存在が手鞠ちゃんを抱くなんてことは許されない。




今朝も、彼女とは別れるべきだと考えた。

だが、ダメなんだ。

手鞠ちゃんの綺麗な輝く瞳を見ると、ぼくの決意が脆(もろ)くも崩れる。

もう少し……もう少し、と思いながら接してしまう。


彼女の顔を見れば、勝手に目は唇に吸い寄せられてしまう。

かわいらしい小ぶりな唇に触れたいと思ってしまう。






……それくらいは許されるだろうか。


許してほしい。






今朝、香織と尚吾の姿を見た時……不思議と以前の様な悲しい想いには捕らわれなかった。


それはおそらく、手鞠ちゃんといたからだろう。


彼女の存在はいつの間にか香織よりも大きな存在へと変化してしまった。

あれほど……あれほど香織を想っていたはずだったというのに……。


まったくおかしなものだ。



















「言うべきじゃなかったんだ。

ぼくの過去は…………」


両手に拳をつくって自分を傷つけるように強く握りしめる。

手鞠ちゃんには、ぼくの過去を現在を知ってほしくなかった。


知れば、おそらくは同情し、ぼくから離れないと言い出すからだ。


彼女はそれだけ優しい娘だと知った。



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