シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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『ふう…よかった、振り落とせたようだ。"夢"の中だからと油断をするな。"夢"は人の心と直結している。直結している限り、ああした"防衛本能"が異物であるあたし達を排除しようと、あの手この手で攻撃してくるから』


それは白血球のようなものだろうか。


『いくらあたし達が膜に包まれていようと、その囁きにあたし達が煽られてしまえば、膜のガードは内から崩れるから』


僕はふと、使い魔たる"彼女"の存在を思い返す。


膜が五皇の領域であるとすれば、闇の囁きは"彼女"の存在で。


それに揺らいでしまえば、膜とは無関係に、勝手に内側から破壊されてしまうのだろう。

防御は強固でも、それに頼る内部は何と脆(もろ)く。


ああ――

僕達は…五皇の領域というものに甘えすぎていたのかもしれない。

確りしないといけなかったのは、僕達1人1人の心。


"彼女"が不安を撒き散らしていたのかも知れないけれど、それがあってもなくても、どんな不安をも打ち消すだけの強さを、そして信頼感を、何よりも持たねばならなかったのだ。


それなのに…芋蔓(いもづる)式に不安だけほじくり返され…朱貴がいなければ、僕達は狂死をしていたかもしれない。


刺客の手を待つまでもなく、自滅をしていただろう。


喪失感と虚無感故に正気を保てずに。


ああ、そんなことを狙っていたのだとしたら、相手は、何て"心"をよく知っていたのだろう。


使い魔を召喚したのは、緋狭さんではなく…久涅だとしたら。


あの男は"心"を理解出来ているというのか、僕達よりも。


それは…狡猾とは少し違う気がしていた。


"不安"を知ればこそ出来た罠。



そんな弱々しい負の感情を、あの男は持ち得たというのだろうか。


それともやはり。


僕達の弱さを理解している緋狭さんの策なのだろうか。


だけど僕は、どうしても緋狭さんを詰れない。
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