胸の音‐大好きな人へ‐
中学2年の時、同じクラスの女子と数ヶ月だけ付き合ってた。
こっちから好きになったんじゃなくて、向こうから告られて付き合ったという、おいしいパターン。
だって、相手は学年1人気のある女子だったんだから。
胡桃澤藍(くるみざわ·らん)。
俺の人生初の彼女の名前。
藍は、先輩後輩問わずモテた。
かすかに潤んだ大きな瞳。
メイクも何もしてないのにツヤツヤな肌。
淡い桜色のグロスが塗られた色っぽい唇。
同級生とは思えない大人びた魅力の持ち主で、右手の指先で左耳に髪をかける姿を見る度、女の魅力ってのに無頓着だった当時の俺でもドキドキしてた。
手をつなげるくらい近くにいると、藍からはいい匂いがしてきた。
あれは何の匂いだったんだろ。
藍からは、日替わりでいろんな匂いがしてきたことを、今でもよく覚えてる。