胸の音‐大好きな人へ‐
あの時のことは、大学生になった今でも鮮明に思い出せる。
遠くに見えた道路が、熱さのせいで水面みたいに揺れていた。
セミの鳴き声とやる気を奪う太陽の光にうんざりしながら、夏休みだというのに補習のため嫌々学校に向かっていた。
一学期末のテストの日、運悪く風邪を引いて休むしかなくなったからだ。
涼しいのは電車に乗ってる間だけ。
駅に降りて学校に向かう途中の道のりは田舎と都会を足して2で割ったような風景が広がってる。
コンビニ、プール、市民図書館、商店街、ゲーセン、立体駐車場が立ち並んでいる通学路。
見慣れた景色のはずなのに、夏休み中に一人で歩いてるっていうだけでだいぶ印象が違う。
フェンス越しにプールで楽しそうに遊んでる小学生たちを見て、内心舌打ちしたりして。
……なんで俺だけ遊べねんだよ。
あんなテスト、風邪じゃなかったら余裕でできたのに。
途中、友達から誘いの電話が来たり、中学の同級生からも《ヒマだったらみんなで集まろー?》ってノンキなメールが来たりして、ますます深いため息が出た。