胸の音‐大好きな人へ‐
誰もいない教室に入り、だらだら流れる汗にイライラしながら、担任教師から受け取った補習のプリントをサクサク終える。
「次のテストでは風邪ひくなよー。
一日おつかれ」
みっちり一日ある補習が終わった後、担任が自腹切ってジュースおごってくれて、それを受け取ったら、夏休みに勉強しなきゃならないつらさも軽くなる。
それでも、ケータイで時間を確認して夕方4時ってのを知っちゃうと、「貴重な夏休み返せー!」と叫びたくなった。
今朝誘ってきたヤツらも、今ごろ楽しんでんだろーなー。
俺が一人、不本意ながら補習受けてるっつーのに、薄情なヤツばっかり。
職員室前で担任とバイバイし、白っぽい夕焼けを浴びて校門を出る。
「こんな時、彼女がいたらなー」
心ん中にポッと浮かんだ本音が口に出てるとは思わず、颯爽と学校を飛び出した。
彼女がいたら、
好きな子がいたら、
補習があっても、こんなめんどくさい気分にならなかっただろーし。
「じゃあ、私のこと彼女にしてみる?」
「……は!?」
校門を抜けてすぐ、真後ろから聞こえた女子の声に振り向く。
「補習、おつかれさま。
びっくりした。圭君いきなり飛び出してくるんだもん」
そう言って笑いかけてきたのが春佳だった。