胸の音‐大好きな人へ‐
春佳と話したのは、多分その時が初めて。
2年間同じクラスなのに、一度も絡んだことなかったな……。
私服姿の春佳が俺に投げかけた「彼女になってあげる」ってセリフを真に受けた俺は、
「俺のこと待ってたの?」
と、クールな顔して自信満々に尋ねたっけ。
《オドオドした男は女にモテない》って、どこかで読んだ気がしたから。
春佳に対してだけじゃなく、藍に振られた後から俺は、女子全員にこういうふてぶてしい態度をとるようになっていた。
藍と別れた時に築かれたつまんない男のプライド、なのかな……。
弱くて不器用な男と思われたくない。
内面だけじゃなく、外見磨きにも力を入れた。
おかげで、高校入ってからは中学の時とは比べようにならないくらいモテるようになったけど、春佳はそんな俺に全く興味を示さなかった。
「俺のこと待ってたの?」って自意識過剰な質問に、
「そんなわけないじゃん。偶然だよ。
今まであそこで、近所の子にクロール教えてた」
と言い、春佳は学校近くの市民プールを指さした。