胸の音‐大好きな人へ‐
なんだよ、こいつ。
待ってたんじゃないんなら、彼女になるなんて気安く言うな!
期待しちゃうだろ!
お前、魔性の女だろ!
自分でも恥ずかしくなるくらい湧き出た赤い感情をグッと胸に閉じ込め、
「クロール? あんた泳げるの?」
と、クールな面持ちで返す。
春佳は小さく首を振り、
「ううん。私も練習中なんだ」
「は? それで人に教えるとか、無理じゃね?
近所の子っていくつだよ」
呆れたようにそう言うと、春佳は幼稚園児が入園式で人見知りするみたいにマゴマゴと、
「7歳の子。私たちより10歳も下だね」
と、真っ赤になっていく顔をうつむかせた。