胸の音‐大好きな人へ‐
わけわからん。
自分が教わった方がいいだろ、それ。
夕焼け空が補習疲れした目にしみる。
早く帰ってクーラーがんがん効かせた部屋でアイス食いてー。
いい加減立ち話もなんだなーと思った俺は、早々に話を切り上げようとした。
「なら、他のヤツに任せたらいいじゃん。
泳げないのに無理して教えてやる必要ないんじゃね。
下手なヤツに教わったってその子のためにもならねーだろ。じゃあな」
「……そうかもしれないけど、その子が、私に教わりたいって言うの。
その子んちの親とっても忙しい人であまり家にいないから、その子が赤ちゃんの時から、近所に住んでる私が遊んだりしてあげてて……。
その子ね、一緒に練習してる時一生懸命で、すごく可愛いんだよ」
春佳は“近所の子”っていうのに相当懐かれてるらしい。
実の兄弟の話をしてるみたいに楽しそうだ。
そんな春佳を見ていたら、早く帰りたいって気持ちも夕焼け空の中に消えて、胸の奥で何かが動く音がした。
なんだろう、この感じ……。
人と話して、初めて感じた想いだった。
焦りのようで焦りじゃない。
喜びのような悲しみ。
寂しさのような幸福。