胸の音‐大好きな人へ‐
コンプレックス。
春佳は他の女子より、それが強い気はしてたけど。
この日春佳は、ラーメン屋のバイトをクビになったことだけじゃなく他にもいろんな悩みがあると話し出した。
一重まぶただと他の子みたいに可愛いメイクができないといった、顔の悩み。
猫っ毛だからスタイリング剤使ったら逆に皮脂っぽく見えて嫌なのといった、髪質の悩み。
近所の子を可愛がってることについても、
「あのくらい小さい子は、私のこと馬鹿にしたり見放したりしないもん。
同じ年とか何でもできる子は、すぐに厳しいこと言ってくるから苦手……」
って、つらそうに笑って話してた。
「そんな話して大丈夫なの?
俺は優しくもないし、そういうヤツらみたいに明日からアンタのこと馬鹿にするかもしんないのに」
兄に劣等感を抱いてきたせいか、春佳の心境にはどこか共感できたのに、そう言うわけにもいかなくて、つい、そう口にしてしまう。
「圭君はぶっきらぼうだし、何考えてるのか分からないけど……。
人を馬鹿にしたりはしないじゃん」
そうだよ。春佳。
この時から、ううん……。きっと、初めて会話した日からずっと、春佳のことを可愛いと思ってたんだ。