しゃぼん玉
雨に濡れた顔にはりつく髪の毛を指先で払ったメイは、近づいてきたリクの顔を見た。
「メイ、やめろ!」
リクはメイの体を強く引っ張り、少年の姿を見下ろした。
少年は、砂まみれになった顔を苦痛で歪ませている。
メイは「邪魔しないでよ」と言い、全身ずぶ濡れの制服を着ているリクをにらみつけた。
リクの唇と体中が、震えている。
寒さのせいなのか、悲しみのせいなのか……。
リクは少年を起き上がらせ、
「大丈夫? ごめんな」
少年はリクの顔を見て安心したのか、一瞬だけ穏やかなまなざしをした。
メイは二人をその場に置いて、公園を出ていこうとしている。
リクは少年の頭をなで、
「家まで、帰れる?」
「はい……」
リクは、弱々しくうなずく少年に転がっていた傘を渡した。
「帰り道、気をつけてね」
そう言い残し、メイを追いかける。
少年は、メイの存在する空間から逃げるように、ひきつった表情で公園から走り去っていった。