しゃぼん玉
少年の姿が完全に見えなくなると、
「メイ、なんで、あんなことしてたの!?」
リクはメイの背後から、その細い両腕を力強くつかんだ。
メイは小さく舌打ちし、前を向いたまま背後のリクにこう言った。
「いいじゃん、別にー。
ちょっと痛い目にあったって、あいつにはなぐさめてくれる親がいるんだから」
さきほどまで体を叩きつけるように降っていた雨は、いつの間にかその勢いを失い、霧(きり)のような細かい水滴に変わっていた。
そのおかげかリクの高ぶった気持ちも鎮(しず)まり、メイの事情を聞く心の余裕が生まれる。
「あの男の子が、家族のことでメイに何か言ってきたの?」
「……あいつ、親にプレゼント買ってもらうんだってー」
“私には、そんなことしてくれる親なんていなかったのに……”
メイの特徴とも言える間延びした口調が、今はなんだか痛々しい。
リクは唇をキュッとひき結び、涙を流した。
冷たい海の底にいるかのように、周りは静かだった。